地域通貨が最近、再び注目されています。
昔の日本に比べ人と人とのつながりが乏しくなってきている今、新型コロナウイルスの影響でそれにさらに拍車がかかっているように感じます。
また、SGDsが叫ばれるようになり、持続可能な社会を少なからず意識している人も少なくないのではないでしょうか。
これからの世の中、お金で何事も解決しようという考えには限界があるからこそ、地域通貨を通して、その地域にある豊かな自然や人々の知識や技術を改めて見直す動きが活発になっているようです。
地域通貨はさまざまな観点から意見を述べることができますが、この記事では人と人とのつながりやSDGsの観点で見ていきたいと思います。
この記事は次のような人におすすめ!!
- 地域通貨という言葉、聞いたことはあるけれど詳しく知らない人
- 子どもに地域通貨という通貨があることを知識として教えたい人
- 地域通貨がなぜ存在しているのか興味がある人
- 地域通貨とSDGsはどうつながるの?と興味がある人
1.地域通貨とは
地域通貨とは、特定の地域(市町村や商店街など)や限られたコミュニティ(大学やNPOなど)内でのみ通用する通貨のことで、モノやサービスとの交換のほか、募金やボランティア活動の報酬として地域通貨が流通しています。
地域通貨は2000年代の始めに広がりを見せましたが、地域通貨を流通させるための初期投資、維持管理にも相当の費用がかかるため、その発行母体に体力がないと維持ができなくなり消滅してしまいます。
地域通貨は多産多死の歴史と言われるように、これまでに800以上の地域通貨が誕生したと言われていますが、そのほとんどが消滅しています。
しかし近年のデジタル化の進化によって流通面や維持管理面のコストを抑えることができるようになり、地域通貨が再注目されています。
そして、特定の地域やコミュニティでの使用に限られているため、コロナ禍で人と人とのつながりが乏しくなった今、地域通貨を通して社会的な交流が生まれ、人と人をつなぐ手段になり得るようにも感じます。
2.地域通貨の種類
紙幣型
その名の通り、独自の紙幣や硬貨を発行し特定の地域やコミュニティで流通するもの。
通帳型
発行母体が発行した通帳に取引内容を記入していくというもの。
神奈川県相模原市緑区の藤野地区で流通している通帳型の地域通貨「よろづ屋」。
1対1の取引を基本とし、提供した側は通帳にプラスを、提供された側は通帳にマイナスを記入し、お互いがサインをし合います。
取引が多くなれば「よろづ屋」の価値が大きくなり、人と人とのつながりも増えていきます。
小切手型
小切手同様、発行した小切手に利用者が裏面にサインをし履歴を残すというもの。
電子マネー型
紙幣や通帳、小切手などを発行する代わりに、お金の価値をデータ化し、カードやスマートフォンなどにお金としての機能を持たせたもの。
3.地域通貨の目的
地域通貨のルーツと言われるものが流通し始めたのは19世紀のイギリス。
「労働証書」と呼ばれる今でいう地域通貨が始まりだと言われています。
労働者を貧困から救い、生活の改善を図ろうと社会主義者であるロバート・オーウェンが試みた取り組みです。
この「労働証書」を仲立ちに協同組合のメンバーが生産したものをお互いに売買し、需要を生み出しお互いを助ける手段としました。
「信頼」によって成り立っていた「労働証書」は、最終的に一番大切な「信頼」が崩れることによって終わりを迎えてしまいます。
今現在流通している地域通貨も、19世紀のイギリスと変わらずその地域やコミュニティの経済の活性化や豊かな自然や人々の知識、技術を人と人とのつながりから守るという目的があるのではないでしょうか。
4.地域通貨のメリット・デメリット
- 地域の経済が活性化する。
- 利用者が、その地域やコミュニティに限られることにより、顔の見える取引が行われるため安全性が高い。
- 社会的な交流がうまれ、人と人とのつながりができることにより相互扶助の精神が生まれる。
- 特定の人物の得意分野を見つけることによりビジネスなど新たな可能性が広がる。
- 流通させる初期投資、維持管理費用がかかる。
- 使える地域・コミュニティが限られている
- 法律に抵触する恐れがある。
5.この地域通貨に注目!!
岐阜県高山市「さるぼぼコイン」
さるぼぼコインは2020年の時点で、ユーザー数約17,000人、加盟店数約1,500店舗を誇る電子地域通貨です。
導入や維持管理費用の問題などで次々と消滅していく中、この「さるぼぼコイン」は成功した事例と言えるでしょう。
「さるぼぼコイン」は飛騨信用組合が発行母体となる地域通貨で、現金のチャージやイベントへの参加でポイントがもらえる特徴があります。
また、「さるぼぼコイン」でしか買えない裏メニューが存在し、例えば
“イタリア料理屋の「かつ丼」売ります!2,000さるぼぼコイン”
“山、売ります!300,000さるぼぼコイン”
“飛騨在住のデザイナー千原さんの「ひみつ」売ります!100さるぼぼコイン”
など、ユーモアに溢れる工夫がされているのが伺えます。
滋賀県草津市 「おうみ」
1999年から流通した「おうみ」は現在、発行・流通を休止しているようですが、発行された紙券は牛乳パックを再利用したものや琵琶湖の葦でできた紙を使用し、また大豆インクを使うなど環境への配慮と地元の材料を使う工夫がされています。
会員登録したユーザーが、提供できるモノ・サービス、提供してほしいモノ・サービスが書かれたサービスリストをもとにモノやサービスの取引をします。
交渉が成立すると、「おうみ」の紙券の裏面に日付と氏名、どのようなサービスに「おうみ」が支払われるのかを記入し、相手に「ありがとう」といって手渡します。
サービス・リストには
“買い物を代行します”
“お年寄りの相手をします”
“ パソコンを教えてください”
“病院への送迎をしてください”
など通常の市場では取引できないような内容が並んでいます。
また、サービスリストで求められているモノやサービスからヒントを得て、自分で提供できるモノやサービスを発見することにつながります。
自分の知識や技術が人の役に立つことで生きがいにつながる良さがこの「おうみ」にはあります。
出典:お金と暮らしを考える本④ 地域だけのお金
東京都国分寺市「ぶんじ」
相手に一言メッセージを書いてから手渡すことで注目されている地域通貨「ぶんじ」。
自分の手に渡ってきた「ぶんじ」がどんな人にどのような使われ方をしてきたのかが、そのメッセージから見てとれます。
「ぶんじ」にはこんな言葉が書かれています。
相手を思う、気持ちのこもった丁寧な仕事に「いいね!」率先したまちのための汗かきに「ありがとう」誰かの「贈る」仕事がまた次の人の「贈る」気持ちを呼び起こし、地域をめぐる。
今の日本円から失われてきている、誰かの仕事を「受け取るためのもの」というお金の意味を気付かせてくれる存在。
だと「ぶんじ」の仕掛け人のひとりである影山さんの言葉が印象的です。
6.海外にもある!!地域通貨
「イサカ・アワー」
アメリカの「イサカ・アワー」という地域通貨は人口2万7000人ほどのいなか町で1991年に発行された地域通貨です。
この地域通貨はお札の形式をとり、2アワー、1アワー、2/1アワー、4/1アワー、8/1アワーの5種類の紙券があります。
ベビーシッターやマッサージ、自動車や家の修理などのサービス、スーパーやレストラン、映画館の支払いなど、1000種類以上ものサービスが「アワー」で取引できるようになっています。
またこの「イサカ・アワー」は銀行がこのシステムに参加し、銀行での各種支払いやローンの返済を「アワー」で受け入れているという特徴があります。
そして注目すべき点ですが、このイサカシティには小規模な有機農法の農家が多く存在します。
ファーマーズ・コーポラティブという協同組合は農家を支援するため、「イサカ・アワー委員会」から寄付を受け、シーズン前に作物を先買いして農家に現金を生き渡らせるのです。
その結果、農家は種付けや農機具のメンテナンスなどの準備ができます。
各農家は自分の農場ではどのような作物をどのように作るかなどをアピールし、参加者はお気に入りの農場を選びお金を投資します。
この投資には利子がつかないため、農場を担保として取り上げられることがなくなり、また大規模農場に買い上げられることによる大規模農法で土地が荒らされることもなくなります。
結果、この「イサカ・アワー」は土地や環境をまもり人々の生活も守ることに繋がっているのです。
地域通貨は「エコ・マネー」と呼ばれることがあります。
「エコロジー」と「エコノミー」が「コミュニティー」のなかで流通するというところからきている造語です。
環境を大切にし、経済活動を人と人とのつながりの中で発展させていこうという試みなのではないでしょうか。
出典:お金と暮らしを考える本④ 地域だけのお金
「LETS」
1983年、カナダのバンクーバー島で流通が始まった「LETS」は、町の深刻な不況に危機感を持ったマイケル・リントンという人物により提案されました。
「LETS」は紙幣や通帳といったものをもたず、会員はシステムを運営する委員会に口座を開設します。
モノやサービスを提供したい会員と提供してもらいたい会員が価格などの条件を交渉し、取引を成立させます。
実際にモノやサービスが取引されたら、その結果を事務局に報告し、各会員の口座にプラスのポイントやマイナスのポイントがそれぞれ記されます。
「LETS」の特徴は、お金を発行する権限が個人に委ねられているということです。
自分でモノやサービスの提供をせず提供ばかりされている場合、マイナスポイントだけが増えていくことになり会員との信頼関係が崩れる危険性があります。
そうならないためにも会員自身が責任をもって信頼関係の構築に励まなければならないのです。
結局のところ、このコミュニティの中だけでは生活必需品などのモノを手に入れることが難しかったこともあり、地域経済の発展には目覚ましい成果をあげられなかったようです。
出典:お金と暮らしを考える本④ 地域だけのお金
今回ご紹介した地域通貨の何種類かは「お金と暮らしを考える本④」という本に詳しく紹介されています。
気になった方はチェックしてみて下さい。
7.まとめ
自分の住む地域やコミュニティにお金を使うことが自分や家族のためになり、地域の発展や豊かさ、環境を守ることに繋がるということを地域通貨は教えてくれます。
地域通貨は地域経済の活性化だけでなく、人々のつながりを生み、ある人の生きがいになり、またある人の感謝の証となる。
地域通貨は、より良いお金の使い方を考えるすてきなきっかけになるのではないでしょうか。
Text:Yuri Ishiguro
Director:Hirotaka Dezawa