小学校ではお金のことをどこまで教えているの?

お金の教育(金融教育)は「生きる力」を養う上でとても有効に活用できる教育といえます。

ここで言う「生きる力」とは、自分から学んで考えて、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力のことで、次代を担う子どもたちがこれからの社会において必要となる力です。

子どもたちが自分の生活や社会について考え、生き方や価値観を練り上げることは教育全体の大きなテーマであり、それを実現するための方法の一つとして金融教育があります。

お金をてがかりに授業を進めることによって、子どもたちは生活や社会にかかわる知識や物事をより具体的に把握し、理解することができ、課題の発見や解決に取り組む上でも、問題をより身近なものとしてとらえ、自分の問題として現実に即し、自分なりに工夫し、判断し、行動する力を養うことができるのです。

金融教育は、このような意味で現実に足場を置いて考える基礎力をつけ、たくましく生きる力を養わせる上で大きな利点をもっていると言えます。

ただ、現状では各学校での取り組みに差があり、子供たちに公平に金融教育が行われているとは言えない状況です。

Yuri Ishiguro
Yuri Ishiguro

この記事は次のような人におすすめ!

  • 金融教育のメリットが知りたい
  • 小学校で金融教育がどこまで進んでいるか知りたい
  • 学校での金融教育の問題点を知りたい

1.金融教育の魅力

金融教育は現実の社会と触れ合う機会を提供する

いまの子どもたちは、生活体験や社会体験が不足しているといわれています。

体験的な学習などを通して、知識や課題を常に自分の暮らしや生き方と関わらせながら理解し、それを現実の場で活用したり、行動に表したりすることによって、やがて子どもたちが生活者や社会人として役割を果たすための予備教育となります。

金融教育はたくましい人間形成をサポートする

いまの子どもたちは何事につけ答えを簡単に知りたがる傾向があるといわれています。

金融教育は金融に関する知識や情報を得るだけでなく、教科等の学習で得た知識や、自分なりの経験、判断を織り込みながら、課題解決に向けて総合的に組み立て、高度に応用する力を養う点に特徴があります。

課題解決のためにあらゆる選択肢を考え、最良と思われる選択肢を選び取ることで、子どもたちは物事を複線的にとらえ、柔軟でたくましく生きる基礎力を培うことができます。

金融教育は将来への意欲や活力を生み出す

いまの子どもたちは将来に明るい希望が持ちづらくなっているとの指摘があります。

子どもたちは、体験学習の中で、実感や感動、新鮮な気づきや達成感、新たな意欲や関心に出会います。そしてさまざまな人々や現実との触れ合いの中で、自分にしかない夢や未来を見出す機会を得ます。

2.小学校での金融教育の実例

アクションワールド

アクションワールドという教室内通貨をつくり、お金を知る疑似体験を行った事例です。

まず始めに子どもたちにいくらかを渡し、アクションワールドのルールを決めます。

例えば、給食当番をすると給料がいくらもらえる、2週間に1回「アクション国」の総理大臣選挙を行うなどです。
給料当番をすることで、お金は貯まりますが、なかなか儲からないことに気付いた子どもたちは、会社を立ち上げ始めます。

しかし、会社が急激にでき始めたことにより、お金が全く回らなくなり、スーパーデフレが起こりました。
立ち上げた会社の中に、新聞社がいくつかあり、毎週コンテストを行い、一週間ごとに国営新聞社を決めることにしました。
国営新聞社になると助成金がもらえるので、子どもたちはそれを目指します。

また、安いくじで買えるくじも流行りだしました。依然とデフレの状況が続いているなか、その時総理大臣だった生徒が「通貨投入しかない」と言いました。
「お金がいっぱいあれば使うんだから、お金をばらまこう」と。

その総理大臣の一言で、この政策を実施したところ、デフレ脱却に成功しました。
デフレを脱却すると、今度はお金持ちのところにお金が集まるようになります。

すると、土地の買い合いが始まり、人気のある土地は高騰します。
同時に、お金持ちの生徒が生まれると、貧乏な生徒も生まれます。

借金をしないと生活できない生徒も生まれました。そんな中でも、ギターが上手な子をプロデュースしてコンサートを開き、帽子にお金を入れてもらう子や、チェロのコンサートを開く子など、さまざまな仕事が生まれました。
しかし、借金が多くなり、つらくなってしまう子が出てきたことでアクション国は消滅します。

借金でつらくなってしまう生徒がでてきてしまうからこそ、お金について学ぶことが大切であると言えます。

子どもは、自分でお金を稼がなくても不自由のない暮らしができるため、お金の大切さはなかなか分かりません。アクションワールドという通貨によって、お金の基本を学ぶことができる一つの事例です。

カレー作りゲーム

このゲームのルールは、限られた予算(おはじき10個)のなかでカレーの材料を買うことです。

このゲームを行う前提として、このカレーはビーフカレーが好きな両親のために作るというものあります。
しかし、このゲームは、両親の好きなビーフを買ってしまうと、カレーに必要な基本的な材料(カレー粉、じゃがいも、ニンジン、たまねぎ)を全部買うことができないという仕掛けがあります。

実際に、このゲームを小学校で行うとさまざまな意見が得られます。

両親の好きな牛肉を買い、自分が嫌いなニンジンを買わないようにする子。
スーパーマーケットの閉店間際に、安売りされている牛肉を買って良いかと提案する子。
自分は食べないで、半分だけ牛肉を買って両親に食べてもらうという子など。

このゲームを通して、何を学べたか、どのように自分の生活に生かしていくかを学習し、自分の解決策を見いだし、自身の価値観によって選択することを理解し、コスト・ベネフィット分析(あるプロジェクトにかかる費用とそこから得られる便益を比較して、そのプロジェクトを評価する手法)や、機会費用まで考慮に入れることを、発見できるようにします。

3.新学習指導要領でどう変わる?

全国のどの地域で教育を受けても、一定の水準の教育を受けられるようにするため、文部科学省では、学校教育法に基づき、各学校で教育課程を編成する際の基準を定めており、これを学習指導要領といいます。

グローバル化や人口知能・AIなどの技術革新が急速に進み、これからは予測困難な時代に突入します。子どもたちには自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら判断して行動し、よりよい社会や人生を切り拓いていく力が求められます。

学校での学びを通じ、子どもがそのような「生きる力」を育むために、学習指導要領が改訂され2020年度より小学校で実施されています。

これからの子どもたちには社会の変化に対応し、自分たちを取り巻くさまざまな社会の課題に向き合い、解決する力が必要だと考えられており、そのような資質・能力を育むための一つとして金融教育の充実が図られています。

金融教育の目標は、内容を4つの分野、および、小学校低学年・中学年・高学年の年齢層別の発達段階に分けられ、それぞれに目標が定められています。

「金融や経済の仕組みに関する分野」「生活設計・家計管理に関する分野」「キャリア教育に関する分野」「消費生活・金融トラブル防止に関する分野」の4つの分野に則して、年齢層別に236項目の教育目標が整理されています。

小学校における金融教育の目標は、例えば、家庭や社会生活における消費、経済、貯蓄、労働など金融に関する活動に関心をもち、お金の役割や働くことの意味についての基礎的な知識や技能を身に付けるとともに、望ましい消費生活や自己の将来設計のあり方を将来にわたって考えようとする意欲と能力と態度の基礎を養うといったものが考えられます。

小学校における指導計画例では、社会科、生活科、家庭科、道徳、特別活動、総合的な学習の時間をはじめとする多くの教科等で金融教育を行うことが可能であると考えられています。

下に記載したのは、各授業の中での指導計画の例です。
指導計画を参考にしつつ、実際の授業の内容は担当の先生の裁量によって変わってきます。

社会科

学校と家庭の水道料金表を教材として、毎日使っている水はどこからくるのか、不自由なく水道を使う生活はどのように支えられているのか。

学校と個人の家庭の水道料金の違いの原因は何か、などの問いをきっかけに、毎日の生活を支える公共サービスの仕組みや日常生活にかかるお金に対する理解を深めさせる。

生活科

学校の近くのパン屋を事前に見学した後、教室でパン購入のシミュレーション学習を行う。

家族の欲しいパンを予算の範囲内で購入するというテーマを設定し、多くの種類のパンの中から家族の好みに合ったパンを購入する練習をする学習である、商店で買い物をするマナーや、困ったことが起こった時の対処方法など、社会生活を営む上でのルールや知恵も身に付けることができるように工夫している。

家庭科①

調理実習の材料を購入するタイミングをとらえ、買い物にまつわる寸劇を行い、児童にさまざまな問いを投げかけることによって、必要に応じた商品を選択し、購入するための判断力を身に付けさせる。

家庭科②

生活は家族の労働によって支えられていることや、将来に備えて貯蓄する必要があることを認識させるとともに、生活の中のさまざまなリスクに児童の関心を向けさせ、それに備える方法の一つとして保険という手段があることも認識させようとする。

道徳

低学年の児童にも身近に感じられる読み物資料を使って、お金の使い方について振り返らせ、その大切さについて考えさせる。

特別活動

家庭との連携のもと、おこづかい帳を記入させ、日常における児童のお金の使い方を振り返らせ、その大切さについて考えさせる。

総合的な学習①

地元の商店街に足を運んで町の魅力を探るとともに、商店街の理事長などを学校に招いて、集客等の日頃の努力について話を聞く学習を取り上げている。

また、児童による出店計画を地元の信用金庫の支店長に評価してもらい、商店経営の厳しさや楽しさを学んでいく。児童は地域への愛着を深め、世の中に対する興味を深め、働くことの大切さにも気づいていくことが期待される。

総合的な学習②

全学級に商品制作・広告・販売を体験させ、学校全体を模擬通貨圏とするシミュレーション学習がある。

予算内で計画を立て、仕入れ・制作・販売・収支決算を行うほか、学校内の出店場所やポスターの掲示位置についてもオークションを導入するなど、児童たちが楽しみながら経済の仕組をみ学ぶことができるよう工夫している。

特別支援学級

チラシから買いたいものを選び、値段を確認して支払いをする買い物の仕方をお買い物ごっこを通じて身に付けさせる。

さらに、この学習を生かして校外に出かけ、スーパーマーケットで買い物をする学習に発展させ、児童にとって必要な、体験的で実践的な学習を、複数の教科等における指導を横断的に行うことで実践している。

4.小学校でお金のことを教える問題点

  • 授業の時間が取れないという制度上の問題
  • 教員が学ぶ機会がない、または少ない
  • 利用可能で適切な教材・指導書がないなど周囲によるサポート不足
  • 教員の問題意識が高まっていない

上記のような問題があり、深く金融教育を授業で実施している小学校は一部に限られています。

小学校における指導計画例では、社会科、生活科、家庭科、道徳、特別活動、総合的な学習の時間をはじめとする多くの教科等で金融教育を行うことが可能であると考えられていますが、過去の授業では子ども達が「お金の勉強をした」と感じているのはかなり少なく、金融広報中央委員の金融リテラシー調査2019では、90%近い人が「学校でお金の教育を受けたことはない」と回答しています。
この数字がどう改善されるか注目していきましょう。

5.家庭でお金のことについて教えよう

学校でお金のことを直接ではないにしろ、各教科を通して教えてもらうから、家庭では教えなくても良いと思う人!!
ちょっと待ってください!!
家庭でしか教えられないお金に関することはたくさんあります。

楽しく親子でお金のことについて話したり、学んだりすることはお子さんとコミュニケーションをとる絶好の機会でもあります。      

おこづかい

定額制、報酬制に関わらず、収入・支出を把握させるためおこづかい帳をつけるなど工夫すると良いと思います。

報酬制にし、お手伝いの対価としておこづかいをあげるのであれば、子どもは働いてお金を得る大変さや、喜びを感じることでしょう。

また、得たおこづかいを使うことも大切で、親があまり口出しせずに、子どもに任せることも必要です。
欲しいものを買うために貯金する、おもちゃを買ったら、お菓子が買えなくなったなど経験を重ねることでお金の使い方を体感的に学ぶことができるでしょう。

普段の生活を通して、お金の流れやものの価値を学ぶ

例えば家族でスーパーマーケットにお買い物に行ったら、同じ商品でもお店によって値段が違うこと、同じ卵なのに卵によって値段が違うことなど普段のお買い物が違う視点からみることによっておもしろいものになるかもしれません。

また、生活するお金は誰がどのように得て、何に使っているのか、子どもの学校で使う道具や筆記用具、ノートにはどのくらいのお金がかかっているのかを子どもと話してみるのも良いと思います。

ゲーム

人生ゲーム

各プレーヤーが億万長者を目指してコマを進め、さまざまな職業についたり、家を購入したり、結婚、出産、転職、収入・支出を繰り返す山あり谷ありの人生をシミュレーションするゲームです。

モノポリー

プレーヤーはすごろくの要領で盤上を周回しながら、他のプレーヤーと盤上の不動産を取引することにより同一グループを揃え、家やホテルを建設することで他のプレーヤーから高額なレンタル料を徴収して自らの資産を増やし、最終的に他のプレーヤーを破産させるゲームです。

あつまれ 動物の森

どうぶつとコミュニケーションをとりながら無人島を発展させていくゲームで、ローンを組むことで自宅を建築・増築できたり、お金を預けることによって利息を受け取ることができたり、株式投資が学べる内容のゲームです。

6.まとめ

子どもは、生活にいくらお金がかかっているのか、学校や習い事にいくらかかっているのか分かっていません。

その支出が生活するお金のどのくらいの割合を占めるのか、そのお金は誰がどのように得ているのかを知りません。

欲しいものがあれば当たり前に買ってもらえると思っている状況では、こどもはお金の価値を知らないまま大人になります。

自分の身の回りにある当たり前のものに、どのくらいの支出がされているかを知ることは、学校や習い事などへの向き合い方、学校でつかう筆記用具やノート、おもちゃなどの使い方を考え、ものを大切にする意識が芽生えるかもしれません。

これからは、子どもに「生きる力」をつけていく時代です。

Text:Yuri Ishiguro
Director:Hirotaka Dezawa